BLOG / Kentaro Matsuo

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前淵俊介さん

2021.07.10

前淵俊介さん
ル グローブ代表取締役、ランデヴー オー グローブ デザイナー

 変貌甚だしい渋谷の駅前を後に、明治通りを恵比寿方面に歩くこと十数分、並木橋の交差点を過ぎて、左に曲がり少し上ったところ、ちょうど広尾の住宅街の端あたりに、その店はあります。

 ドアを開けて中に入ると、フロアには、洋服がぎっしりと掛けられたラックが何本も置かれ、ショーケースの中には、アクセサリー、時計、その他諸々の雑貨が、所狭しと並べられています。このカオティックな雰囲気は、いかにも“何かありそう”という感じです。

「このブランケットは、ミャンマー北西部に暮らす少数民族のナガ族が織ったものです。ナガ族は、つい最近まで首刈りの習慣があって、私が行ったときには、まだ本物の人間の髑髏を身に着けている奴もいた。政府が“そんな野蛮なことは、もうやめさせる”というので、代わりに布を織らせることにしたんです。その布がこれなんですよ」

 はたまた・・

「こっちのシルバーアクセサリーは、タイ北部に住んでいるアカ族が作ったものです。休暇でチェンマイに行っていたら、たまたまいい雑貨屋を見つけて、そこにシルバーを売りに来ている奴がいた。それがアカ族の人間だったのです。山の奥地にある彼の村へ連れて行ってもらって、『もしアクセサリーを持っていたら、あるだけ買うよ』と言ってバイイングしてきたのがこれらです。もちろん言葉は通じないから、全部ジェスチャーでしたけど(笑)。代々受け継がれていたアンティークで、作られたのは7〜80年くらい前。もう作り手は、全員亡くなっているでしょう。シルバーは925より純度が高い950が使われています。日本では、まずウチでしか手に入りませんよ・・」

 とここまで聞いて、思わず「これ、買います!」と口走っている自分がいました。そんな貴重なものが、たった数万円だとは・・。説明を聞いていて、どうしても欲しくなってしまったのです。

 そして、“この感じ、どこか久しぶりだなぁ”とも思いました。そう、これは昔、まだ学生だった頃に、渋谷やアメ横へ行って、「この間ロスへ行ったら、会う人会う人、全員これを着けていたよ」とか、「こんなに手間をかけている工場は、世界中どこへ行っても絶対にないね」などという店員さんのトークに目を丸くしつつ、せっせとバイト代をつぎ込んでいたかつての私、そして憧れだったセレクトショップそのものです。

 いまのセレクトショップは、会社の規模が大きくなり、企画する人、仕入れる人、売る人が、皆バラバラになってしまいましたが、昔は全部一人でやっていました。それぞれが突撃渡航して、自分で面白いと思うものを買って来て、自ら売っていたので、モノに対する“熱さ”が違っていたように思います。今回ご登場のランデヴー オー グローブの前淵俊介さんは、まさにそんな頃のセレクトショップを体現しているようなお方です。

 前淵さんは、ミウラ&サンズ時代からシップスに務め、日本にフランスのマルセル・ラサンスを持ってきた人として有名です。そしてラサンスが日本に初めて紹介したものは、数え切れないほどあります。

 ジェイエムウエストンやオールデンの靴、エルベシャプリエのバッグ、ノースフェイスやモンクレールのダウンジャケットなどなど・・。今では洒落者のマストアイテムとなったこれらのアイテムも、日本人に教えたのはラサンスだったと記憶しています。

「26歳のときに、フランスのマルセル・ラサンスのショップに研修に行きました。初めて本人に会ったのもパリです。2〜3週間ほど滞在して、いろいろ学ばせてもらいました。ある日、私がネクタイを並べていたら――無地、ドット、ストライプなど種類ごとに分けて、キレイに整列させていたのですが――それじゃ、ダメだという。もっと無造作において、お客さんに言われたら、いろいろなところから、さっと取り出してコーディネイトしろと。雑多な感じ、探す楽しさを演出しろというのです。なるほどと思いました」

 2005年には、青山にあったセレクトショップ、ル グローブを任されるようになります。

「コンセプトはオール輸入物、オール直輸入でした。私はいわゆる輸入代理店は通さないで、すべて自分でバイイングする主義なのです。ニューメキシコのインディアン・ジュエリー、テキサスのシャツ工場、そしてもちろん数々のヨーロッパ・ブランド・・。当時は年に200日は海外を飛び回っていましたね」

 独立してランデヴー オー グローブをオープンしたのは2012年のとき。現在では前淵さんがデザインするオリジナル・クローズの人気が高まり、日本のセレクトのみならず海外のストアへも卸しているそうです。ゆったりとしたシルエットと、ミリタリーやワークをモチーフとしたディテールが秀逸です。

ジャケットとパンツは、ランデヴー オー グローブのオリジナル。

「オリジナルは国産にこだわっています。日本の素材を使って、日本の縫製工場で縫っています。これはリネン100%の生地を、墨汁で染めたもの。そう、あの習字で使うヤツです。使い込むとアタリが出て、いい風合いになるのです」

 麻100%の帽子は、デ アンタゴニスト。ドイツでハンドメイドの帽子を作るブランドです。

 メガネは、昔のペルソール。

 時計は、スイスのIWC。

 ネックレスは、ネイティブ・アメリカンのダニー・ロメロ氏の作品。

 指輪は、同じくネイティブのアンソニー・ロバート氏が作ったもの。

 ターコイズのブレスレットは、ダン・ジャクソン氏。

 ビーズは、日本のノース ワークス。東京・福生を拠点とするアクセサリー・ブランドで、アメリカのコインを曲げて加工したブレスが有名です(個人的には、福生のハウスというのがシビれますね。高校生時代に通ったところです)

ウォレットチェーンは、イタリア・ミラノのデレコーゼ。

 シューズは、イタリアのグイディ アンド ロゼリーニ。

「トスカーナのメーカーで、バケッタレザーを得意としています。自社工場を持つ、イタリア有数のタンナーでもあります。だから革の質は最高ですね。長年の付き合いで、スタッフはウチの服を着てくれているんですよ」

 まさにランデヴー オー グローブ(地球で会いましょう)をそのまま形にしたような、世界中のいいものを組み合わせたコーディネイトです。

 ランデヴー オー グローブは、来年でオープン10周年を迎えるそう。長続きの秘訣は? と伺うと、

「これが流行るとか、あれが売れるとか、時代の流れとか・・そんなもの一切関係なく、世界中から、自分の好きなものだけを仕入れるという主義を貫いていたら、いつのまにか10年経った感じです(笑)」と。

「10周年の記念として、グイディにコードバン製のシューズを作ってもらおうと思っているのです。もちろん彼らはタンナーだから、アメリカのホーウィンなんて使わない。自分たちで素材自体から鞣すのです。どんなものが上がってくるか、今から楽しみです。また今まで国産にこだわってきたオリジナルも、初の海外ブランドとのコラボをリリースします。イタリアのギ・ローバーにオックスフォード製のシャツをオーダーしました。世界トップクラスの縫製はさすがですね。私の出したオーバーサイズのパターンに、目を白黒させていましたが・・」

 と服の話になると、止まりません。

 今度渋谷駅で降りたら、散歩がてらに恵比寿まで歩いてみてはいかがでしょう? その途中には、モノに対する熱き情熱を持つ男が作った、とびきり面白い空間が待っていますよ。

左上から時計回りに:アカ族が作ったシルバーアクセサリー ¥20,000~/パリで仕入れたアンティークの懐中時計とフォブチェーン ¥20,000〜50,000/ナガ族のブランケット¥12,000/伊ギ・ローバーとのコラボ・オックスフォード・シャツ ¥35,200(2022春夏発売予定)/グイディ アンド ロゼリーニのブーツ各 ¥184,800/ノース ワークスのブレスレット大¥110,000、小¥88,000 rdv o globe

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ランデヴー オー グローブ
東京都渋谷区東2-22-1
Tel:03-6419-7384
https://www.rdvoglobe.co.jp/

 

THE RAKE
https://therakejapan.com/

PROFILE

松尾 健太郎

松尾 健太郎

THE RAKE JAPAN 編集長


1965年、東京生まれ。雑誌編集者。 男子専科、ワールドフォトプレスを経て、‘92年、株式会社世界文化社入社。月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、以後クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05年同誌編集長に就任し、のべ4年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン各編集長、新潮社ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌THE RAKE JAPAN 編集長。

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