BLOG / Kentaro Matsuo

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堀田健一郎さん

2021.06.10

堀田健一郎さん
VMS代表取締役社長

 VMS(VISUAL MERCHANDISING STUDIO株式会社)の代表を務められる堀田健一郎さんのご登場です。VMSはVM(ヴィジュアル・マーチャンダイジングまたはVMDとも)をメインビジネスとする会社です。その世界では超売れっ子として知られており、30近いクライアントの仕事を請け負う他、VMを教える講座も主宰なさっています。

それでは、VMとは、どんな仕事かといえば・・、私はなんとなく、ストアやウインドウのディスプレイをする仕事だと思っていました。着付けたトルソーや商品を並べたり、デコレーションを施したり・・。だから堀田さんも、きっと美大かどこかでデザインを学んだ、アーティスト気質の人なのだろうなぁ、と勝手に考えていました。ところが・・

「物心ついてから、22歳になるまで、ずっとサッカー一筋でした。私が育ったのは茶処として知られる京都・宇治市なのですが、茶畑のなかでボールばかり追いかけていました。幼馴染みでずっと一緒にサッカーをやっていて、実際にプロサッカー選手になった友人もいますよ。ファッションは好きでしたが、普段はアディダスのジャージしか着ていませんでした(笑)」 

 しかしながら、才能の限界と怪我で夢は破れ、大学も中退。酒屋などでバイトをする日々が続きます。

「たまたまビームスの販売代行をする会社に入ったのは、23歳のときです。販売職としては、遅いスタートでした。まわりには17、18歳の先輩がいて、1年間掃除機ばかりかけていました。その後、大阪・心斎橋にあるビームスへオープニング・スタッフとして移り、南雲浩二郎さんと運命的な出会いをします。

「南雲さんは、当時ビームスのディスプレイの監修のようなことをなさっていました。彼が朝から晩まで店に入って、右から左まで手をかけていくと、すべてがカッコよくなっていくのです。カシミアのニットの上に、さらりとシルクスカーフを置くだけで、もう全然違う。まるで魔法を見ているようでした」

 なるほど、それでVMを目指したのですね、と伺うと、

「いいえ、全然。当時はヴィジュアル・マーチャンダイザーなんて言葉は詳しく知りませんでした。販売員だった私が必死で考えていたのは、どうやって物を売るかということです。商品は同じなのに、どうして売れる人と売れない人がいるのか・・? そこで気がついたのは、販売上手な人には、何か声をかけるきっかけがあるのでは、ということでした。よく見ると、お客様はディスプレイを見て、ぴたりと両足を揃える瞬間がある。そこでその一瞬に声をかけることにしました。でも『ご試着できますよ』なんて言ったら絶対にダメ。『これ、カッコいいですよね?』とお客様が思っているのと同じことを言うのです。お客様に同調する、そう心がけたら、その日から話が弾むようになり、サクサクと、面白いように売れるようになりました」

 こうして、堀田さんは、大阪を代表する販売スタッフと言われるまでになります。

その噂は東京にまで届き、J.リンドバーグのブランド・マネージャーを任されます。

「マネージャーといえば聞こえはいいですが、要するに“なんでも屋”です。店長はもちろん、バイイング、PR、ケアタグの翻訳まで全部自分でやりました」

 さらに、モデルの平山祐介さんの紹介でイッセイ ミヤケへ転職。青山の路面店の店長に抜擢されます。

「向かいのコムデギャルソンには行列ができていたのに、イッセイ ミヤケはそこまでは至らない。『当時デザイナーだった滝沢直己さんの服は素晴らしいのに、何が違うんだろう?』と考えて、やはりディスプレイを面白くしたら売れるのでは、と思いつきました。そこであれこれ工夫をこらしたら、スタッフとお客様の話が弾むようになり、売り上げもどんどん伸びた。『やはり、ディスプレイは効果があります』と当時の社長に伝えたら、『明日からVMDを任せる!』と言われて、イッセイとしては初めての、VMDの部署まで作ってくれたのです。それが私がVMになった瞬間ですね」

 まさに“叩き上げ”ですね、と言うと、

「そうです。私にとっては現場がすべて。ディスプレイと販売は必ずセットなのです。よくVMDを教える講座では、三角構成とか紙コップを使って勉強するんです。つまり三角形に商品を置くと、きれいに見えるとか・・。しかし、そんなことばかりをしても商品が売れるはずがありません」

 その後、ドルチェ&ガッバーナ、ルイ・ヴィトンと世界有数のブランドのVMを務めます。

「ドルチェ&ガッバーナは、ミラノでのショーが終わった次の日に、バイヤー向けの展示会を行うのですが、そこでいちばん大切な“1番ラック”のセットアップを任されたときは嬉しかったですね。他国のVMは舌打ちをしていましたが・・“何で日本人なんかにやらせるんだ?”という気分だったのでしょう。ドミニコ・ドルチェのチェックを受けるときは緊張しました。彼は天才ですからね。ちょっとサンプルの肩をつまんだりすると、もう全然違う表情となるのです。“つまみ方”がスゴイんです(笑)。そういった技(ワザ)を間近で見られたのは幸運でした」

そんな堀田さんの着こなしは・・

ジャケット、シャツ、パンツは、ともにコムデギャルソン。

スニーカーは、ドーバー ストリート マーケットNikeLabで購入したナイキ エアフォース1。

「ギャルソンは昔から好きで、ビームス時代にもよく着ていました。ビームスでそんな服を着ているヤツはいないので、いつも店長に怒られていましたね(笑) 正確に言うと、ジャケットは“オムドゥ”、パンツは“プリュス”、シャツは“オム”です。黒い服を着るのには理由があります。お店はステージ、販売スタッフはそこで輝く演者であって、お客様がスターです。われわれVMスタッフはそのステージを造る“黒子”の役割なので黒を着るようにしています。自分たちではなく、いつの時代もお店が輝いて見えることが一番重要なことなのです」

「ギャルソンがスゴイのは、何年も前から、ひとつひとつの商品に、縫製責任者が判子を押していることです。今日は27年前のパンツを持ってきたんですが、ちゃんと印があるでしょう? これはサヴィル・ロウの職人が自らの服にサインしたり、宮大工が柱の内側に銘を打つのに似ていますね。品質の証なのです。縫製がしっかりしているので、今でも着られますよ。今サステナビリティという言葉をよく聞くようになりましたが、技術に誇りを持つ、ものを大切に扱う、技術を継承してモノを循環させる。これはものづくりの原点ですね。私はひとつのモノを長く大切に使い続けたいタイプなのです」

「日本の着物にも同じような考え方があります。修理することを前提に作られているし、いいものは代々受け継がれていく。日本人が昔からとても大切にしていた想いや習慣です。そういった考え方に共鳴して、いま某着物店のお手伝いもさせて頂いています。私は来た仕事はすべて安易に受けるのではなく、まずクライアントとじっくり話をし、同じ考え方やリスペクトできるポイント、共感できる理念があるブランドを中心に、仕事をさせて頂いています」

コロナ禍が続き、ますますEコマースが伸びるなか、実店舗を相手にするVMのお仕事はどうなのかと伺うと・・

「ショーウインドウだけでなく、SNSやHPを使って、デジタルとフィジカルをリンクさせて、最高のカスタマー・エクスペリエンスを考えるのが今のVMの役割と責任だと思っています。ECとの相互送客のきっかけ作りもVMの役割のひとつですね。だから昔のようにただ“ディスプレイを替える”のではなく、“コミュニケーションを変える・考える”のがわれわれの仕事なのです」

 そう前置きした上で・・

「例えば、ここボルボ スタジオ 青山と取り組んだプロジェクトでは、従来のクルマのショールームではあり得ない、バルーンを使ったコミュニケーションを考えました。表参道という場所ですが意外にも子供連れが多いエリアだとわかっていたからです。『わぁ、フウセン、フウセン』と喜ぶ子供の声をたくさん耳にしました。コロナを機に全世代がECで買い物ができる時代になりましたが、だからこそここで原点回帰が必要。実店舗で大切にしたいのは、外を歩いている人を幸せな気分にしたり、いかに店の中に誘引できるか、ということ。これがわれわれVMの腕の見せどころなのです」

 販売の現場で鍛え上げられた豪腕と、世界一流のブランドで磨かれてきた審美眼。なぜ堀田さんがVMとして引っ張り凧なのか、その理由がよくわかったインタビューでした。

取材協力:ボルボ スタジオ 青山
〒107-0061東京都港区北青山3-3-11

 

THE RAKE
https://therakejapan.com/

PROFILE

松尾 健太郎

松尾 健太郎

THE RAKE JAPAN 編集長


1965年、東京生まれ。雑誌編集者。 男子専科、ワールドフォトプレスを経て、‘92年、株式会社世界文化社入社。月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、以後クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05年同誌編集長に就任し、のべ4年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン各編集長、新潮社ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌THE RAKE JAPAN 編集長。

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