2019.02.27
人気ブランドのキーマンから話しを聞くB.R.ONLINEのスペシャルインタビュー。それぞれのブランドの根源にあるもの、クリエイションへの思い、発想の原点に迫ります。B.R.ONLINEでも大人気のマリア・サンタンジェロ。毎シーズン支持される理由は、進化を続ける同ブランドのアイデンティにありました。
ヴィンチェンツォ・ロマニュオーロ さん
1953年、母のマリアさんが自身の名を冠したカミチェリア(シャツ工房)を創業。曾祖母の代からシャツ作りに携わってきた家系であり、ブランドの設立から2代目にあたるヴィンチェンツォ氏は。プロダクトマネージャーとして、いまも伝統的な仕立て技術を受け継いだハンドシャツを作り続けています。ナポリのトラッドスタイルを牽引するとともに、マリア・サンタンジェロのシャツをより多くの人に知ってもらうために数々の取り組みも実践中。新ファクトリーも稼働し、ブランドの新たな展開を推し進めています。
ヴィンチェンツォ・マリア・ピザーノ さん
ロマニュオーロさんの義兄にあたるマリア・ピザーノさんは、セールスマネージャーとして海外営業を担当。ナポリらしく家族経営されているマリア・サンタンジェロで、ロマニュオーロさんを公私ともに支えています。
これまでマリア・サンタンジェロのシャツは、袖付とサイドガゼットの2箇所をハンドにした「2.0」が人気モデルでした。昨秋「2+2」モデルが登場して、4ポイントハンドになったのですが、ハンドポイントを増やした理由は何だったのでしょう?
もともとマリアサンタンジェロの既製品は、袖付、サイドガゼット、ボタンつけと剣ボロのカンヌキの4ポイントハンドだったんです。それをコスト的に抑えながら、多くの方に着ていただけるよう「2.0」が誕生しました。数シーズン続けて好評を得たこともあり、それなら4ポイントに戻しても価格を据え置こうということになったのです。
この4ポイントハンドは、サルトリアとしてのアイデンティティとして残したいと、2ポイントのときから思っていたんです。マリア・サンタンジェロはつねに進化するブランドです。世界中を回ってお客様と触れ合うことで、お客様の好みや希望、ニーズを知って製品に取り入れています。
2ポイントから4ポイントに戻したのは、単に戻したかったからではなく、トラディショナルとモダンの組み合わせの結果だと思っています。
袖付けやカンヌキは力が掛かる箇所なので、ハンドにする理由はわかります。サイドガゼットとボタンをハンドにするのはなぜですか?
サイドガゼットを取り付ける箇所は前身頃と後ろ身頃の合わさっている部分なので、普通に脱ぎ着するだけでなく、洗濯するときにも力が掛かるとガゼットごと縫製部が破けることがあるので手縫いでしっかり縫い付けるんです。剣ボロのカンヌキも腕まくりをするときなどにトラブルを起こしやすいのです。
ボタン付けも取れにくいようにですか?
それもありますが、ボタンは機械で付けるより手作業のほうが高さが出せるんです。糸足が高いとボタンを留めたとき前身頃にしわが出にくいんです。
なるほど! それは気づきませんでした。さすがはシャツ専業の職人さんですね。
今日はお二人ともナポリらしいお洒落なスタイリングです。マリア・サンタンジェロのシャツのコレクション中、おすすめの衿型はなんですか?
「マルコ」ですね。台衿が高すぎず、剣先が長過ぎず、トレンドに左右されにくい。衿芯もやわらかいんですよ。私も普段は「マルコ」を愛用しています。
私も「マルコ」が一番好きです。タイドアップしたときに一番サマになるからです。あとで話しますが、今季の「マルチェッロ」も自信作なので、おすすめしたいですね。
近年、世界的にドレススタイルがクラシック回帰していて、シャツの衿も多様化していますよね。タブカラーとかピンホールとか、クレリックとかも注目されている。このようなシャツのトレンドの変遷を、どのように見ていますか?
クラシック回帰はシャツの衿型云々というよりも、スーツやジャケットを着たいと思う人が増えてきたということだと思います。シャツの需要があがっているのは、純粋にうれしいですね。
世界的にはシャツを着る人が増えてきていますが、日本ではジャケットにカットソーやニットを着る人も増えています。他のシャツブランドのなかには苦戦しているところも多いようですが、B.R.ONLINEではマリア・サンタンジェロは好調なんです。これをもっと広めて、多くの人にシャツを着てもらうには、どうすればいいと思われますか?
私たちもリサーチには力を入れていますので、そういう状況があることも知っています。マリア・サンタンジェロのシャツは一度着ていただくとわかってもらえるシャツだと思っています。リピーターが非常に多いことが、それを証明しています。エレガントな人が着ている、あのシャツはどこのブランドだろうと思ってもらえるようになれば、そのシャツを着てみたいと思う人が増えるのではないでしょうか。シャツをまったく着ない人はいないと思うので、「上手にシャツを着こなす人」をつくりだしていくことが重要だと思います。
プルオーバーのシャツや半袖シャツ、タックアウトして着られるボックス型など、スポーティなシャツなら着てもらえるのではないでしょうか。スタンドカラーシャツにするとか、サプライヤーもアイデアを出していく必要があると思います。
マリア・サンタンジェロでもスポーティなシャツはつねに模索していて、プルオーバーシャツなどもリリースしているんです。今季からは製品染めのシャツや、デニムシャツのシリーズ「Washed」のシリーズを展開していきます。ドレスシャツを着ない人に向けた、新たな発信をしていく予定です。
今季、新たな衿型が登場します。ワンピースカラーの「マルチェッロ」ですね。この名前の由来は、もしかして?
はい、往年の名優マルチェッロ・マストロヤンニです。ワンピースカラーは、もともと60年ほど前に、母が仕立てていたモデルなんです。それをいまのスタイルに取り入れるにあたり、若干修正しました。
60~70年台は「エレガンテの時代」。とても興味深い時代ですが、私たちの世代なりのモディファイをしました。
ワンピースカラーって、イタリア語でなんていうんですか?
「シャラート」といいます。ショールカラーという意味です。とても複雑な仕立て方で、あけたままで着るとスポーティで、ジャケットのラペルの上に衿を出して着ることもできますし、ボタンを閉めればタイドアップもできる。
「ダブルユース」という言い方も良くしますね。
そうするとワンピースカラーはカジュアル用、それともドレス用? どのような位置づけなのでしょうか?
(義兄を見て) どっちなのかな? ドレスでもカジュアルでもあると思うんだけど…。
着方としては、ドレスにもカジュアルにも着られるけれど、一般的なシャツよりもラグジュアリーなシャツと言うことができるとは思います。生地も通常のものより多く使うし、コストも30~40%多く掛かります。衿一枚作るコストで、普通のシャツ衿が2枚できるんです。
ジャケパンでもスーツでも、タイドアップもノータイもできて、カジュアルを極めれば水着に着てもいい。街角のカフェで着てもいいし、船の上でも似合います。そういう意味では、ラグジュアリーな世界観が似合うシャツといえるかもしれません。
最後に、今季おすすめの色柄・素材を教えてもらえますか?
ストライプは今シーズンイチオシの柄使いです。サックスなどブルー系のもの、少しスポーティなものが良いでしょう。個人的には太幅のストライプが好きなので、ボールドストライプなどもおすすめしたいですね。
私はジャージー素材や洗いの掛かったデニム素材のシャツがいいと思います。
チェック柄も個人的には大好きです。カラバリエーションは、ナポリらしい自然の色を着たいですね。太陽の黄色、土の茶色、バジルの緑、トマトの赤、海と空の青です。
フラワープリントも今年らしい柄使いです。ジャケットスタイルにプリントの小花柄もナポリっぽいでしょう。
お二人の好みって、もしかして真逆ですか?
仕事に関しては弟のほうが真面目です。スタイリングはよりクラシックですしね。
コーディネートや提案の仕方などは兄のほうが上手いなと思うことはよくあります。それに私はピッツァが好きだけど、兄はボンゴレパスタが好きなんです。洒落てるでしょ(笑)。
Photographer : 岡田ナツ子 / Writer : 池田保行 (ゼロヨン)