BLOG / Kentaro Matsuo

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松任谷正隆さん

2022.06.25

松任谷正隆さん
音楽プロデューサー・アレンジャー・キーボーディスト・作曲家・モータージャーナリスト・エッセイスト・タレント

 いくつもの肩書をお持ちの松任谷正隆さんのご登場です。音楽方面でのご活躍は言わずもがなで、そのキャリアは日本のポップス史そのものといえますが、私が関わらせて頂いたのは、エッセイストとしての松任谷さんです。2000年代初頭、編集長をしていたMEN'S EXという雑誌で「僕の散財日記」という連載をして頂いており、毎回届けられる原稿を楽しく拝読していました。
 松任谷さんは生まれも育ちもよく、音楽的にも経済的にも大成功されていて、お金もうなるほどあるはずですが、そんな氏がたった一枚のマフラーやセーターを買うのにクヨクヨと悩まれる様子がおかしくて、つい笑ってしまったものです。
 松任谷さんの文章はところどころに散りばめられた自虐ネタが面白く、読み終えると、「松任谷さんほどの人でもいろいろと悩んでいるんだ。だから自分もがんばろう」という気分にさせてくれます。文体にも独特のリズム感があって、すらすらと読めてしまいます。いつか私も、ああいう文章が書けるようになりたいものです。
 エッセイストとしての松任谷さんのファンは多く、今でもカーグラフィック、メンズクラブ、ALBA(アルバトロスビュー)、CAPA(キャパ)など、7本もの連載をお持ちです(職業作家でもそんなに持っている人はなかなかいません)。

「文章を書くことは嫌いではありません。それに原稿は早いんですよ。自分としては自虐しているつもりはなくて、思ったことをそのまま書いているだけなんです。東海林さだおさんの漫画に出てくるキャラクターが好きで、僕自身もああいうキャラなんだと思います」

 本日の装いについて・・
 ジャケットは、kolor(カラー)。1965年生まれのデザイナー、阿部潤一さんがデザインする日本のブランドです。
「kolorを知ったのはアメリカにおいてです。ロスにあるネイキッドというお店がアンダーカバーやノンネイティブなどの日本ブランドを紹介しており、逆輸入のような感じで日本の服のよさに目覚めました」

 ポロシャツは、ラコステ。大きなワニのロゴは英国人デザイナーとコラボしたときのもの。

 パンツはイタリアのマルニ。

 メガネはJINS(ジンズ)。
「以前はオリバーピープルズや999.9(フォーナインズ)をたくさん買っていましたが、いまはJINSですね。これでレンズも入れて1万円ちょっとですが、一番しっくりときます。メガネは、もはや顔の一部です」

 シューズは、ジェイエムウエストン。靴好き憧れのクロコダイル製ローファーです。
「もう40年も前に買ったものです。当時は安かったですし。特別な手入れは何もしていないんですよ。ただ履いているだけです」
 ただ履いているだけで、ここまで美しく保たれているとは・・松任谷さんの「足の脂」は特別なのでしょうか?

 ファッションのポリシーは? との問いには
「僕は裏方なので、基本的に地味な格好が多いのですが、いくつかの顔を使い分けています。TPOは考えているのです。例えば、最近始めたバンド活動(鈴木茂さん、小原礼さん、林立夫さんと始めたSKYE)のときは、黒系の服に細身のパンツを合わせたりと、ちょっとロックっぽい格好をしています。とはいえ、いわゆる“ロックンロール・ファッション”は大嫌いなんですけど(笑)」

 ちなみにもうひとつ嫌いなのは、「連(つる)むこと」だとか。慶応ボーイの代表格とも思える松任谷さんですが・・
「学生時代の友人とは今でも仲良くしていますが、慶応の校風は嫌いです。連む奴らは苦手なんです。三田会とか、絶対に出たくないですね(笑)」

 1951年生まれの松任谷さんにとって、ファッションはまずアメリカのテレビドラマから入ってきたといいます。
「子供の頃、ゴールデンタイムにチャンネルを回すと探偵ものの『サンセット77』や『サーフサイド6』、『バークにまかせろ』、ウエスタンの『ボナンザ』、戦争ものの『コンバット』などをやっていました。そこからいろいろな情報が入ってきたんです。戦後間もない時代でしたから、男子でお洒落な奴なんて、ひとりもいませんでした」

 中学、高校生になって、まず手を付けたのはトラッドでした。
「僕らのちょっと上の世代がアイビー全盛期で、みゆき族をやっていました。その影響でVANやテイジンメンズショップに行くようになりました」

 次にハマったのはウエスタンです。
「これは音楽の影響が大きかった。トラッドはカレッジ・フォークとは相性がよよいのだけれど、トラッドでカントリー・ウエスタンをやるとカッコ悪いのです。そこでウエスタン・ファッションを探しました。しかし当時の日本には、本物のウエスタン・シャツなんてどこにもなかった。当時原宿の竹下口にハラダという服屋があって、そこでテトロン(ポリエステル)製のウエスタン風シャツを1500円で買ったことを覚えています。ウエスタン・ブーツは横田のタイガー靴店というところで作ってくれると聞きつけて、わざわざ出かけて行きました。まだベーリーストックマンなんてなかった時代です」

 その後、1970後半〜80年代いっぱいまで、ラルフ ローレンに夢中になります。
「僕の人生には“ラルフ ローレンの10年”というのがあるのです。日本では買えなかったので、アメリカへ行く度にラルフのお店へ行って、大きいズタ袋ふたつほど買ってきていました」
「しばらくラルフ ローレンから離れていたのですが、最近また買い始めたんです。ラルフにはいまだに、若い頃のままの格好をしている“周回遅れのお父さんたち”がいる。彼らに混じって再び走り始めた感じです。周回遅れに見えないように頑張っているのですが、これがなかなか難しい」

 ラルフ ローレンの次はイタリアン・モードに傾倒します。
「これはマルセル・ラサンスの影響が大きかった。80年代、30歳のときにパリへ行ってフレンチトラッドの洗礼を受け、ラサンスにハマりました。その後90年代になって代官山にラサンスのお店ができた時、僕のイメージしていたフレンチトラッドとはずいぶんと違っていたのです。『これはイタリアの影響を受けているぞ』と感づいて、プラダやドルチェ&ガッバーナなどを買い始めたのが最初です。それまでいわゆるイタカジは大嫌いで、『ストーン アイランドなんて絶対着ない』と宣言していたのにね(笑)」

 そして前述のように、逆輸入の形で日本のブランドに開眼。
「ずっと昔は、日本のブランドなんてロクなものがなかった。ところが僕が通っていたロサンゼルスのマックスフィールドやネイキッドといったショップで、日本のブランドを扱うようになり、日本人が作る服を面白いと思うようになりました。よく行くのは、オーラリー、COMOLI(コモリ)、ノンネイティブ、kolor、sacai(サカイ)、アンダーカバーなど。展示会を回って気にいったものがあるとマークしています」

 ファッションと音楽とに、共通点はありますか? と伺うと、
「それは、大いにありますね。音楽が変わるとファッションが変わるし、ファッションが変わると音楽も変わる。リズムが洋服全体のシルエットだとすると、コードワークはカラーリングに例えられます。ふたつとも螺旋を描くように、昔のエッセンスを取り入れつつ、今の気分を反映させている。だから僕の場合は、音楽に煮詰まらないように、新しい洋服を買うという感覚ですね。正直、なんでこんなに服が好きなのか、いまだによくわからないのですが、たぶん自分をフレッシュに保つための手段なんだと思います」

 膨大なショッピング体験を重ねてきた松任谷さんに、こんな質問をしてみました・・人生で買ったものベスト3は何ですか?

「う〜ん、何だろうなぁ・・」とひとしきり唸ったあと・・

1.ルイ・ヴィトンのミンクのベスト
「色はブラウンで、片側がミンクで反対側はナイロンが張ってあります。買ったのは10年ほど前ですが、『これはもう永遠に着続けられるな』と思うほど気に入っています。一年中出しっぱなしで、夏でもそのままです。当時60万円もしましたが、完全にモトは取りました。でも、こんなものは1000個買って、ひとつあるかないかです(笑)」

2.マイティマックのコーデュロイ・コート
「中学生のときに、アメ横で祖母に買ってもらったものです。自分では欲しくはなかったし、当時はブカブカだった。これが大事なものだと思うのは社会人になってからです。重いのが玉にキズですが、畝(うね)の具合など昔のコーデュロイはいいんですよ。長く着続けているという点では、僕のワードローブの中のチャンピオンでしょう」

3.ラルフ ローレンのウルグアイ産ソックス
「ラルフ ローレンがウルグアイの職人に、ハンドメイドで作らせた靴下です。日本には入ってこなかったし、高すぎたからかすぐに止めてしまった。フェアアイルみたいな柄だけど、エスニック調なんです。昔、僕たちの間で小ブレイクしたウルグアイのマノスや、ペルーのテジュカのセーターのエッセンスが靴下のなかに入っている。これは宝物です。同じものを4つ買って、履かずにとってあります(笑)」

 では後悔した買い物は? と伺うと、
「もう後悔だらけです。確率的には、4つ買ってひとつは後悔する(笑)。僕の場合、クローゼットにないものを買おうとするから、いつもチャレンジなんです。当然失敗も多い。2年くらい様子をみて、どうしても着る機会がないと、人にあげてしまいます。ショッピングって難しいですよね。よく同じようなものばかり買う人っているじゃないですか。しかし傍から見ると、そういう人ってバカみたいでしょう? しかし僕のようにチャレンジングなのもバカです。つまり買い物って、何を買ってもバカなのです(笑)」

 そう自嘲気味に笑われた松任谷さんですが、お話を伺っていて、やはりこの方の視線は面白いなぁと感じました。それに見た目も感性も、古希を超えているとは思えないほど若々しい。失敗を重ねつつも、新しい服にチャレンジし続けるのが、フレッシュさを保つ秘訣のようです。ショッピングは若返りの妙薬なのですね。
 いつも同じようなものばかり買っている私も、次回は松任谷さんを見習って、新しいものにチャレンジしようと思います。
 ・・まずはカツラとか?

<オマケ>

 私の個人的な興味から、松任谷さんが現在お持ちのクルマについてお聞きしました。同じことに関心をお持ちの読者も多いと思うので、ここに記しておきます。

プジョー208
テスラ モデルX(テスラはモデルSに続いて2台目)
2000年型ポルシェ911 GT3(996)
メルセデスAMG C63

 それぞれの使い方を想像すると、なんだかうきうきしてしまうようなラインナップですね。今回は時間がなく、クルマについてはお聞きすることができませんでしたが、もし機会があったらじっくりとお話を伺ってみたいと思いました。 
 松任谷さん、ありがとうございました!

 

<ツアー情報>

 松任谷さんのバンド「SKYE」の東名阪ツアーがあります。以下ご参照下さい。

2022/7/14(木) 開場18:15 開演19:00
愛知・愛知県芸術劇場 大ホール

2022/7/20(水) 開場18:00 開演19:00
大阪・フェスティバルホール

2022/7/25(月)&7/26(火) 開場18:00 開演19:00
東京・Bunkamura オーチャードホール

 詳しくはホームページで。
https://columbia.jp/artist-info/skye/info/79356.html

「バンド」って言葉がいいですね。錚々たるメンバーが組んだ、フレッシュな、まるで中学生のようなバンド。しかしテクニックは「神」。これ・・行きたいなぁ!

 

THE RAKE
https://therakejapan.com/

PROFILE

松尾 健太郎

松尾 健太郎

THE RAKE JAPAN 編集長


1965年、東京生まれ。雑誌編集者。 男子専科、ワールドフォトプレスを経て、‘92年、株式会社世界文化社入社。月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、以後クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05年同誌編集長に就任し、のべ4年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン各編集長、新潮社ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌THE RAKE JAPAN 編集長。

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