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「GEM by moto」 店主 / 千葉 麻里絵人、風土が育む宝物、日本酒。
その魅力を伝えてゆく喜び。

2018.05.18

システムエンジニアから、学生時代のアルバイトで経験した飲食店での充実感が忘れられず、新宿の『日本酒スタンド酛(もと)』 のオープニングスタッフとして働き始めた千葉麻里絵さん。蔵元さんとの交流から生まれた酒造りに関する深い造詣と、大学時代専攻した有機化学の知識をベースに、お客さんの「好み」に対して精度高く日本酒を提供するスキルが話題になり、今や多くの日本酒や食のイベント、メディア等でも活躍中です。2015年に千葉さんが店長としてオープンさせた、日本酒とそれに合わせた料理のペアリングで大人気の恵比寿『GEM by moto(ジェム バイ モト)』 にて、小さい頃の事から、日本酒の世界に引き込まれた経緯、そして近況、今後についてお話を伺いました。

『GEM by moto』店主

千葉 麻里絵 さん

山形大学物質化学工学科卒業。システムエンジニアを経て、日本酒の世界へ。現在は、日本酒と料理のペアリングが楽しめる恵比寿[GEM by moto(ジェム バイ モト)]店主。人気料理人、人気シェフとの交流の中から生まれたペアリングイベントも大人気。フードイベント、セミナー、メディア等にも頻繁に登場し日本酒新時代を牽引する顔として世界的にも注目されている。自身の活動をベースにしたウェブコミック『日本酒に恋して』や、フードカルチャー誌『RiCE』のウェブ『RiCe.press』でも日本酒にまつわる情報を対談、寄稿等で発信中。



充実感溢れた、学生時代のアルバイト体験

--- 小さい頃のことを聞かせてください。

岩手県の宮城県寄りの江刺市(現奥州市)で生まれました。幼稚園は、青森県寄りの軽米町で、小学校は海に近い種市町 (現洋野町)、4年生からは盛岡市に移りました。父親の仕事が金融系で転勤が多く、小学生の頃から転校を重ね、中学校も自分だけが、違うエリアからの入学で、心細い思いをした事を覚えています。今もかなりの人見知りなんですが、今思うと小さい頃転校を繰り返した事が影響しているかも知れないですね。

高校時代は盛岡で過ごし、数学が得意だったのと、有機化学、特にベンゼン環の世界がパズル感覚のようで面白くて、山形大学、工学部物質工学科に進学しました。山形での初めてのひとり暮しが楽しくて、仙台まで出向いて、間接照明とかオーディオ用のブロックとか手に入れたりして。

音楽はジャズが好きで、ジョン・スコフィールドやパット・メセニーを聴いたり、、、あと、ジェフ・ベックも好きでしたね。部屋を暗くしてジャズを流して、ひたすらジャック・ダニエルや、アーリー・タイムズ、芋焼酎などをロックで飲んでました。

--- 学生時代どんなアルバイトを?

初めてのアルバイトが、80席ほどの日本酒とお魚が人気の山形駅前の居酒屋でした。接客に厳しいお店で、当日のオススメの魚10匹くらいを桶に入れ、その調理法をお客さんに説明しなくてはならず、必死で覚えました。日本酒も50種類くらい扱っている店で、大抵のお客さんが「辛口頂戴!」と言うので、「オススメください!」と言われたら、「辛口」を出すようにしてましたね。

大学の後半からは、就職対策もあり「人見知り」を克服したいと言う思いで、バーのカウンターでアルバイトを始めました。人の目を見ると緊張するクセはなかなか克服できず、手元の紙に「今日は、いい天気ですね」、「普段は何を飲まれてますか?」、「髪切られましたか?」とか箇条書きして働いてました。

人と接する事は得意ではなかったのですが、接客業を通して、お客さんに何かを奨めて、受け入れていただいたり、喜んでいただいたり、働いている人からは、時には怒られたり、評価していただいたりする事が楽しかったですね。



--- 最初のお仕事は、システムエンジニアとお聞きしましたが?

大学4年の研究室は食品をテーマにしていて、食品会社の研究室のような所に就職したかったのですが叶わず、特に深い考えも無く、都会で働きたい事、スキルを活かせる点、収入等を考えて、システムエンジニアとして東京で働く事に。

3年間働いたのですが、飲食ビジネスと違い、直接ユーザーからの反応が見えにくい環境に少しずつ違和感を覚え、飲食業への転職を意識するようになり、、、。父親は、接客業、飲食業を「水商売」と決めつけるような硬い考えの人で、説得に苦労しました。

「日本酒を扱う店」に限定していた訳でなく、「カウンターメインの小規模な店で働きたい」という思いで仕事を探し始め、ワインのお店とかにも応募したりしたのですが、たまたま、2010年、新宿『日本酒スタンド酛(もと)』のオープニングスタッフに応募したら採用になり。

当時、日本酒は今ほど盛り上がっていなくて、新店という事もあり、お客さんが中々入って来てくれず、スタッフが交代でビラ配りしたり。そんな状態だったのでシフトも少なくなり、収入面で厳しかったので、百貨店の日本酒売り場のアルバイトも並行して入るようになりました。



日本酒という宝物(GEM)

--- 日本酒への意識はどのように変化していきましたか?

鳳凰美田の小林酒造さんの蔵元見学に参加させていただいた時に、何か後ろから頭を殴られたような衝撃を受けました。酒造りの工程の一部を見学、体験する会なのですが、ミスをすると本気で怒られるような雰囲気で。

張り詰めた空気感の中で、水、米、酵母という繊細な素材から生まれる日本酒という「生き物」を、見えない力で、みんなで育んだり、支えたりしているような、酒蔵の皆さんの酒造りに向き合う真摯な気持ちが、強く伝わって来た事を覚えています。

そんな酒造りという研ぎ澄まされた世界を知らずに、ただ瓶から液体を注いでいただけの自分がなんだか恥ずかしくなりました。成分や製法、特徴という表層的な情報だけでなく、作り手の皆さんの心をしっかり伝えさせていただきたい、そんな気持ちを抱くようになりました。

それからは、仙禽(仙禽 / 栃木)、川鶴酒造(川鶴 / 香川)、新政酒造(新政 / 秋田)、水戸部酒造(山形正宗 / 山形)、永山本家酒造場(貴 / 山口)、金光酒造(賀茂金秀 / 広島)、木屋正酒造(而今 / 三重)等々、様々な蔵元さんを訪ねたり、酒類総合研究所で官能評価の専門家である清酒専門評価者のセミナーを受講したり、日本酒に対して以前とは違うレベルで接するようになって行きましたね。

【恵比寿『GEM by moto(ジェム バイ モト)』。千葉さんのこだわりの内装で日本酒専門店とは思えない洗練された印象。】

--- お客さんに対しての接し方も変化しましたか?

日本酒により深く接するようになって気づいたのは、お客さんが好みを伝える、『辛口』とか『フルーティー』とかいう表現が、人によって違う意味になっているのでは?という事でした。例えば、『辛口』であれば、それは「切れ」なのか、「ガス感」なのか、『フルーティー』であれば、「香り」なのか、「味の甘み」なのかが曖昧で、言葉だけでは正確に理解できない、という限界を感じるようなりました。

試しに、自分が客という立場で、何軒かの日本酒のお店に行き、想定している銘柄名を出さずに、「好み」を細かく、丁寧に言葉で伝えてみたのですが、ほとんどのお店は、自分が思い描いているお酒が出てこず。その銘柄に辿り着いたのは、ひとつは、50年くらいの経験者のお店。もうひとつは、化学的な説明を理解してくれたお店でした。

清酒の官能評価を学んで行くうちに、元々有機化学を専攻していた自分の知識が、日本酒の味や、香りを構成する要素をロジカルに理解する事を容易にしてくれる事に気づきました。自分なりに「化学をベースとし、酵母等の成分やアルコール度数、その製造工程等による銘柄の味、香りの分類」を行い、お客さんへの丁寧なヒアリングを重ねた上でお勧めする事で、精度高く好みのお酒を提供できるようになって行きました。例えると、お医者さんが患者さんの診察を経て病気を特定し、治療を施す事に似ているプロセスですね。

「化学」によるアプローチに対しては、少しネガティブな意見をいただいたこともあったのですが、日本酒の造り手の方や、ワインなどの他ジャンルの方とは、より正確に、より深いレベルでお話ができるようになったと思います。あと、まだまだキャリアが短い自分にとって、独自の方法論を追求する事で、新たな可能性が見つけられるのでは、そんな思いもありました。

--- 恵比寿に『GEM by moto(ジェム バイ モト)』を出された経緯は?

新宿『日本酒スタンド酛(もと)』が行列もできる人気店になった事で、次はより日本酒の価値を高め、その魅力をより広い層に伝えられるようなお店のイメージが浮かんで来ました。立地的にはあまり日本酒専門店が多くない所で探し始めて、この恵比寿と広尾の中間のエリアのお店にたどり着きました。

特徴としては、「海外展開も意識した四合瓶中心」、「氷温庫を設置し提供温度、品質をコントロール」、「日本酒とのペアリングを考えた料理」でしょうか。内装も自分のこだわりを徹底させて、色、照明、家具も自ら選び、ぱっと見は日本酒の店には見えないような雰囲気づくりを心がけ2015年7月に開店しました。

GEMという言葉には、JEWELRYと同じ「宝石」という意味もあるのですが、「宝物」、「子供」、「大切な物」というもう少し暖かなニュアンスがあります。また、原石を磨いて光り輝かせるように、日本酒という宝物を、このお店を通じてより魅力的にみなさんに提供したい、そんな思いもあります。

恵比寿という立地も良かったのか、和食に限らず、様々な料理人の方にもきていただけるようになり、そんな方々との交流の中から、ペアリングのイベントが自然に生まれて行きましたね。

【恵比寿『GEM by moto(ジェム バイ モト)』。ボードには口内調味を意識した、日本酒にぴったりのメニューが。】



日本酒をより楽しく、より広く

--- 料理人の方との印象的なペアリングのイベントは?

1番最初で、まだ形も定まってなかったこともあり、熟成鮨の㐂邑さんとのイベントが強く印象に残ってます。はずみで、一品ごとにドリンクを提供する事になってしまい、木村さんの料理をまず私がいただいてから、それに合うお酒を考え、お客様にお出しするスタイルで始まりました。

木村さんも妥協が嫌いな方でしたし、初めての事でお酒の種類にも限りがあったりで、、、、。そんな制限があったからこそ、以前から試みていた、お酒同士をブレンドしたり、調味料を加える手法にも磨きがかかっていきました。

時には5分以上考えてからお酒を提供する事になったりして、お客さんにはご迷惑をおかけする場面もあった会でしたが、その分、忘れられない緊張感、充実感を味わえたイベントになりました。



--- 蔵元さんとの新たな試み、『dot SAKE project』について教えてください?

きっかけは、家飲みのお酒選びの相談をメール等でいただくようになったのですが、物理的に全てに対応する事ができないので、いっその事、「家飲みに特化したお酒を造ってしまおう!」ということになり。家飲みの為のお酒を蔵元さんと一緒に設計して、その蔵元さんの魅力を伝えながら、より自由な家庭でのお酒の楽しみ方を提案する、というのが基本的な趣旨です。

家では、テレビや携帯電話などとの”ながら飲み”という方も多いと思ったので、瓶の表側にQRコードをつけて、ここにスマホをかざすと、蔵元の方と私が、お酒の魅力を説明する動画が流れるという「映像ペアリング」とも言うべき仕掛けも付いています。

また、家庭でのお酒との接し方、楽しみ方が広がるように、表側のラベルに、このお酒の飲み方の提案が、わかりやすく記載してあります。「dot(ドット)」には、「日本酒がどっと広まりますように!」と言う意味と、QRコードを表側のラベルに馴染ませることから思いついた、「ドット絵」という2つの意味をかけました。こだわりで瓶に直接プリントする仕様を採用したので、少しコストが嵩みましたね。

【dot SAKE project記念すべき第一弾は、銘酒「貴」で知られる山口県宇部市の酒蔵「永山本家酒造場」との作品】

--- これからの千葉さんの展開、野望を教えてください。

日本酒を引っさげて、海外に、自分の知らない街に出ていきたいですね。氷温庫なんて無いでしょうし、輸出の際の温度管理も難しいと思うのですが、まだ、日本のレベルでお酒を提供できている環境も少ないと思うので、そこに日本酒文化を作っていくような試みができればと。

具体的な話は無いのですが、今一番イメージできているのが、先日、日本大使館で日本酒を提供させていただく機会があり訪れた、L.Aでしょうか。ある街で形ができたら別の街に移り、世界中に日本酒を、日本酒の背後にある文化を広めていけたらいいなと思います。

いつになるか分かりませんが、そんな事を繰り返した後に日本に戻って、内装もそんなにこだわらず、一種類のお酒しか出さないような、すごくシンプルなお店をやってみたいですね。

海外展開も、究極にシンプルな店も、全て今の時点で自分の考えるイメージですが、ひとつだけ確かなのは、「日本酒とはいつまでも一緒にいたい」、その事だけでしょうか。


CREDIT
Interview & Photo : SUMIYA TAKAHISA

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