2024.08.29
目利きのニットマスターである戸賀さんは、秋から春までTシャツ感覚でカシミアニットなどを着られています。そんな戸賀さんに、今季のカシミアニットの見立てについて伺いました。“アウター要らず”とまでいわれる極上カシミアニットの魅力は、「温かさだけじゃないよね」とはけだし名言。戸賀さんならではの、カシミア視点で語ってくれました。
▲ フェデリ / カシミア クルーネック ニット ¥113,300
▲ ピーティートリノデニム / BR別注 ホワイトデニム パンツ ¥42,900 (税込)
「ぬめるような極上の手触り」とか「細かな毛足のやわらかなタッチ」などと表現されることの多いカシミアニット。そもそも標高数千メートルの高地にて、過酷な気候下で育つカシミア山羊の希少な産毛を採取するのですから、一頭から100g程度しか採れない希少な素材ですが、流通量が生産量の30倍とも言われるほど紛い物が多いのも事実。確かなカシミアを手に入れるには、信頼できるブランド選びはマストです。
「もともと生産量が少ないうえに、等級分けされた最上級はごくごく僅かなのは明らか。その最上級カシミアを独占的に買い付けているのは、イギリスとイタリアの数社に限られているのが現状。カシミア山羊を飼育する地域に投資して、太いパイプがあってこその寡占市場なんだね。イギリスとイタリア、どちらが好きかといわれると、ファッションとして進化し続けているイタリアブランドのほうが、極上カシミアを上手く料理していると思うな。」
そんな戸賀さんが愛用するカシミアブランドのひとつがフェデリ。80年以上もの歴史を誇るイタリアの老舗ゆえ、古くからの流通経路をしっかりと押さえているため、安定的に極上カシミアを供給できる希少なファクトリーです。
「旧式の低速編み機を使用していることで知られるフェデリのカシミアは、シルエットとともに編み立てが素晴らしい。しっかり目が詰まっているのに、空気をたっぷり含んでいるんだ。着ているニットはクルーネックや袖・裾のリブを細めにしていて、着たときにカットソーのようなシルエットになる。この手のベーシックな形状のニットはジャケットのインナーに着るものという印象があるけど、イタリアブランドのカシミアはいち早く、トップス1枚ニットを実現させてるんだよね。」
▲ フェデリ / カシミア クルーネック ニット ¥113,300
( オフホワイト/ライトベージュ/ブラック )
( グレー/ラベンダー/ピンク )
フェデリのもうひとつの魅力はカラーバリエーション。シーズンごとに少しずつ色を違えて展開していますが、今季はこんな淡色のバリエーションを並べています。
「淡い色味はカシミアの繊細さがあってこそ出せる色合い。杢系のバリエーションを加えているあたりも、カジュアルな雰囲気を醸すのにぴったりだね。」
「カットソー感覚」で1枚で着ても温かなので、初秋のニット1枚スタイルにぴったりですね、というと戸賀さんは「本当のカシミアの魅力って、温かさや手触りじゃないんだよなぁ」と意味深な発言。その本意は、以下でお伝えします。
▲ セッテフィーリカシミア / Baby Cashmere クルーネック ニット ¥118,800
▲ ピーティートリノデニム / BR別注 ブラックデニム パンツ ¥41,800
▲ シーキューピー / スウェード スリッポンタイプ スニーカー ¥55,000
オレンジレッドのカシミアニットはセッテフィーリカシミアのもの。こちらは創業20年に満たない若い企業ですが、創業者は以前からファッションエージェントとして活躍。その太いパイプを使って、高級カシミア糸を供給するカリアッジ社などから最高品質のカシミアが供給されています。
「セッテフィーリもヴィンテージ編み機を使っているんだ。こちらはデザイン性も秀逸なので、色出しやシルエットだけでなく、デザインも多彩なカシミアを毎シーズンリリースしてる。このクルーネックはベーシックなかたちだけど、クルーのリブが少し太リブになっているのがアクセント。こういう遊び心が使えるところが、イタリアのニットメーカーなんだよね。」
毛足も肌触りも極上ゆえ、手にしてみれば、いかにも温かそうなカシミアニットたち。でも、本当の魅力は温かさや手触りじゃない、という戸賀さんに、そのココロを聞いていました。
「カシミアの一番の魅力はそのオーラ。いいカシミアにはいいオーラがあるんだ。たとえば毛足の美しさはカシミア原毛の品質からくるものだけど、それによって見え方が全然違う。言ってみれば、着る人を輝かせてくれるというか、引き立ててくれるんだよね。上質なカシミアを着ている人は、端から見ても明らかに上格に見えるし、着ている人はその着心地良さに背筋が伸びる。外側からも内側からも、着る人のエレガンスを引き出してくれることこそが、カシミアの最大の魅力なんじゃないかな。」
そう話す戸賀さんは、たしかに背筋が伸びていらっしゃいました。もともと高身長なところに加え、さらに背筋も伸びれば端正なスタイルがより引き立って見えるというもの。そんなカシミアの「オーラ」、誰にでも享受できるんです。
▲ セッテフィーリカシミア / Baby Cashmere クルーネック ニット ¥118,800
( ブラック/ベージュ )
( オフホワイト/オレンジレッド )
セッテフィーリカシミアの今季のカラーパレットは、先程戸賀さんが着てらしたオレンジレッドを挿し色に、オフ白、ベージュ、黒のベーシックカラーをラインナップ。生後1年に満たない仔山羊の産毛を使ったベビーカシミアを使った新ラインからのリリースで、毛足の美しさ、色出しの見事さも手伝って、極上のオーラを醸しています。
「ベーシックでシンプルなクルーネックニットこそ、カシミアのオーラがリアルに伝わるアイテム。スリーブは細身でボディはピタピタ過ぎない適度な余裕があるところも、大人体型をきれいにみせてくれる。素材、デザイン、シルエット、この3つの要素がカシミアのオーラをさらに高めてくれるといってもいい。今日の2つのブランドは、戸賀も愛用しているイタリアの定番。この魅力、皆さんにも画面を通しても伝わってると思うけど、やっぱり実物に袖を通して体感してほしいです!」
Producer : 大和一彦 / Photographer : 鈴木泰之 / Writer : 池田保行 (ゼロヨン) / Designer : 中野慎一郎