2020.02.03
今回は長男のファブリツィオ氏を伴って来日したベニーにインタビュー。じつは昨秋、B.R.CHANNELの公開収録に三男のアンドレアと出演予定が、台風で収録中止の憂き目にあっていたそう。息子たちと一緒に歩むブランドの現在と未来についても語ってくれました。
ベネディット・デ・ペトリロ さん
1959年ナポリ生まれ。1980年代初め、義父の経営する縫製工場で経験を積み、1987年、アパレルメーカーを設立。90年代には、アントニオ・ラ・ピニョッラ(元キートンのモデリスト、アントニオ・ピニョッラ氏が手がけたクラシックブランド)に取り組み、サルトの技術や表現を学ぶ。2009年、デザインから生産、販売までを一貫するデ・ヴィ・インダストリア社をナポリ郊外の町、フラッタマッジョーレに創立。自身の名を冠したデ・ペトリロをスタートさせた。
ファブリツィオ・デ・ペトリロ さん
1987年ナポリ生まれ。数年前に父の仕事を継ぐ決心をし、生産工程の見習いを経て、現在はベニーの右腕として経営、営業、生産管理を担当。幼い頃から祖父の工場を遊び場にしていたことから、糸や生地に対する知識も深い。彼の下にはバンドマンととして活動しながら、最近父の仕事を手伝うようになった次男のクリスティアーノと、その下に先日初来日を果たした三男のアンドレアがいる。
昨年10月、伊勢丹でB.R.チャンネルの公開収録を予定していましたが、台風の影響により中止という出来事がありました。
とても残念でしたが、来られなかったファンの方から、SNSにたくさんのメッセージをいただきました。この場で、お礼を申し上げます。また、台風被害に遭われた方々に心よりお見舞いを申し上げます。
古くから日本では、台風で甚大な被害があったり、経済活動がストップすることがよくあるんですよ。
ナポリには「状況が良くないときこそ、良い方向に考えよう」という言い回しがあります。日本人の危機管理力を知ることができましたし、また一歩、日本人の考え方を深く知ることができたように思います。
次の日は伊勢丹新宿店、その翌日は大阪のgujiさんで、店頭に立たれたとか。お客様とお会いされてみて、どうでしたか?
たくさんのお客様とお話しさせていただきました。コレクションテーマは、どのようなインスピレーションから生まれたのかなど、とてもたくさんの質問をされました。私からも自分自身の考え方やフィロソフィーを話すこともできましたし、ブランドとしてのミッションをお客様に直接伝えることができました。作り手からエンドユーザーにこういうお話ができる経験は、なかなかないことです。
デ・ペトリロのファンの年齢層は幅広いとは思いますが、日本だと平均は30歳と比較的若い層から支持を受けています。
海外ではもう少し上ですね。高級仕立て服を着慣れた方ほど、デ・ペトリロの魅力を理解していただけますので。
でも実際のところ、デ・ペトリロを着るのに年齢は関係ありません。私より上の人が着ても、若々しく着ることができますからね。
日本では20代の若い方から私と同じぐらいの年齢の方まで、幅広い年齢層の方と話しすることができたことで、デ・ペトリロのターゲットゾーンが、当初私が想定していたよりもかなり広いということも分かってきました。今後のコレクション作りに大いに役立つヒントです。仕事で会うバイヤーとは違う、本音の話しができました。
父は、仕事の話になると熱弁になるので、ときどき衝突しますが、本音のキャッチボールができる場があることは、父にとってもブランドにとってもいいことです。
B.R.ONLINEのコンテンツで私たちの服を紹介するとき、いつもモダンなカジュアルスタイルと、タイドアップしたクラシックなスタイリング、両方掲載されていますね。デ・ペトリロは、その両方に着こなせる服です。あれは、正しい提案だと思います。
ブランドの考え方、フィロソフィーきちんと伝わっていることはとても嬉しく思います。
では春夏のコレクションについて教えて下さい。
今季のテーマは「ルネッサンス」です。とくにボッティチェリの絵画にインスパイアされたカラーパレットを用意しています。
中心となる色はブラウンからベージュのトーン。ベースカラーは少しオレンジ掛かっていて、そこへブラウンのグラデーションやグリーン、ブルーが乗る感じです。
わかりやすい柄としてはグレンチェックとハウンドトゥースなど。クラシック風のチェックも格子のスケールが大きく、ブラウンやオレンジが入ります。素材としてはリネンを混紡したものや、デニムっぽい風合いの素材も新しいと思います。
昨シーズンからモノトーンのコレクションも増えていますね。
白黒の対比によるモノトーンではなくグレーのグラデーションを加えたモノトーンに注目しています。これらは昼間に着るモノトーンとして提案しています。
若い人たちはそれほど気にしませんが、イタリアの大人たちにとってモノトーンは夜の服という印象なのです。そこでモノトーンのジャケットにブラックデニムや白のコットンパンツをあわせることで、普通にカジュアルに着られるモノトーンをコレクションに採用しています。
イタリアンクラシックなブランドで、こういうモノトーンの使い方をするところは、とても珍しいのではないですか?
モノトーンラインを加えたことでブランドイメージが固まったように思います。イタリアンクラシックスタイルの幅を広げることができているように思うんです。
若い人たちにとって、クラシックな色柄の組み合わせ方は難しいのでしょう。その点、シンプルで合わせやすいモノトーンは、若い人に受け入れやすい。
自分でも着こなせるクラシックがあると知ってもらえれば、若い人にもっとクラシックスタイルを訴求できます。ここから経験を積んで、多彩な色柄を着こなせるようになってもらえれば。
次世代の感性は私たちだけでなく、クラシックブランドのすべてにとって重要です。いまお客様のニーズが多岐にわたっている時代だからこそ、ファブリツィオの役割はますます大切なんです。
(声を潜めて) 最近ようやく、父も僕の話しを聞いてくれるようなってきたんです (笑)。
じつは先日の展示会で、すでに次の秋冬は「夕焼けの森」というテーマを設定されていると伺いました。19年秋冬は「ガーデン」、20年春夏は「ルネッサンス」。毎年、明確なテーマを立てるようになってきたのはなぜですか?
父はいつもコレクションのことを考えているのですが、一番近くにいる息子の僕ですら、父の思いのすべてを理解するのはとても難しいと常々感じていました。さらにお取引先で、商品説明をするときは、もっと難しくなるでしょう。そこで、やはりテーマを設けたほうがプレゼンテーションしやすいと思ったのです。
以前は不要と思っていましたが、テーマを明確化することで、私の頭の中にあったスタイルも明確になってきました。より深く、考えることができるようになったんです。
これまで父は伝え方を考えることにまで時間を割いていたのですが、いまでは純粋にコレクション作りに没頭できています。テーマが明確だから生地メーカーとの意思疎通もしやすくなり、エクスクルーシヴ生地を作ることもできるようになりました。
スーツやジャケットを作るだけなら、どこのブランドでもできますが、スタイルまで伝えられるブランドは少ないです。デ・ペトリロには、そういう環境が整っています。皆が成長することで、ブランドが成長していることを感じています。
これから大切にしていかなくてはならないのはクオリティです。それは単なる品質だけでなく、着心地も含めたクオリティです。これは日々向上させていくべきものだと思っています。そしてクオリティに則した、納得行くプライスも大切にして行かなくてはなりません。クオリティを上げてプライスを上げていくのは簡単ですが、若い世代にも手が届くハイクオリティでありたいと考えています。
今現在、ファブリツィオさんの役割はどのようなものですか?
いま会社の経営面も生産面も、全般的に見ています。肩書き上は父がトップですが、実働的にはモデリスト、スタイリスト、デザインディレクターとしてコレクション制作に専念できる環境を与えたいと考えているので。
経営面や営業面をファブリツィオに任せることで、多くの時間をコレクションの制作に割けるようになりました。
クラシックスタイルはどうしても経験がものを言うように思います。ファブリツィオさんは、長年クラシックファッションに携わって来られたお父さんをどのように思われますか?
確かに学ぶ点はたくさんあります。とくに父のスタイリングセンスには私が追いつけない経験の積み重ねがあります。経営方針や営業手腕の面で尊敬はしていますが、父とまったく同じことをやろうとは思っていません。時代に則した経営方法があります。性格も違うので、ぶつかることも多いですが、いまは2人の考え方をひとつにまとめて進んでいるといった状態です。
良質なコレクション作りには、良質な経営チームが必要です。どちらか一方だけが優れているのではなく、トータルで全員が同じ方向を向かねばなりません。いまは、とてもいいチームになってきていると思います。
最近、父の思うスタイルを実現するため、ファブリックデザイナーを招聘しました。生地ひとつとっても、デザインする人とそれを織る人の技術力が揃わないと、確かなものは仕上がりませんので。
確かに、人的なリソースが揃ってきたことで、デ・ペトリロのコレクションがさらに厚みを増しているのを感じています。
Producer : 大和一彦 / Photographer : 小澤達也 / Writer : 池田保行 (ゼロヨン)