BLOG / Kentaro Matsuo

TITLE

山田龍太郎さん

2021.05.10

山田龍太郎さん
ブライスランズ ストア・マネージャー

原宿の雑踏を抜けて、神宮前の住宅地のほうへ進み、小さな坂を登る途中に、ブライスランズはあります。ファッショニスタとして世界的に知られたイーサン・ニュートンが店主を務めるショップで、イタリアン・クラシックとアメリカン・カジュアルを、独自の解釈でミックスした品揃えは、洒落者をひきつけてやみません。

 さてここ数年、熊のような大男であるイーサンの横に、ほっそりとしたイケメンの日本人が立ち並んでいるのがよく見かけられます。キャラクターはぜんぜん違いますが、イーサンに負けず劣らずとてもお洒落で、ストア・マネージャーとしてブライスランズの新たな顔になりつつあります。それが、今回ご登場頂いた、山田龍太郎さんです。お生まれは、1990年だというから、私の息子であってもおかしくない年齢です。

「生まれは和歌山ですが、育ったのは東北です。学生時代はバドミントン部に所属していました。東京だとバドミントンをやっているというと引かれますが、雪が多い東北では室内競技が盛んで、わりとポピュラーな部活なんですよ。カミングアウトしても、恥ずかしくないんです」

 こういうことを衒いなくいえるのは、若さの特権ですね。なんだか聞いていて爽やかな気分になります。

ブライスランズは、私が今でも洋服を買う数少ない店のひとつで、以前山田さんにも接客してもらったことがあります。私くらいの年齢になると、若い店員さんだとビビってしまって(もしくはスルーされて)、満足なアドバイスを受けられないことがままあります。しかし山田さんは違いました。

 例えば、オリジナルのジーンズを買ったときは、私はもともとルーズフィットのジーンズにベルトをして穿くのが好きだったので、「ワンサイズ上をください」と何回も言ったにもかかわらず、山田さんは私が試着したジーンズを矯めつ眇めつ眺め、「いや、松尾さんには小さいサイズのほうがいいです。お願いですから、こちらで行かせてください」と押し切られてしまいました。

 家に帰って洗うと案の定縮み、ウエスト回りが苦しくなってしまいました。しかし山田さんには、「キツく感じても、そのうち伸びてフィットしますから」と言われていたので、我慢して穿いていたら、そのうち彼の言う通りジャストフィットになり、今ではベルトをしないでジーンズを着用することが普通になって、そっちのほうがカッコいいと思うようになりました。

ささいなことのようですが、“ベルトなしでジーンズを穿く”ということは、いい年をしたジジイにとっては大転換であり、それを教えてくれたのが山田さんだったのです。以来彼のことを、ショップスタッフとして信頼するようになりました。

「日本ではオタク的な知識を詰め込んだり、逆にお客様を神様のように扱ったりする店が多いと思うのですが、ブライスランズは違います。店とお客様はイコールの関係なのです。それを教えてくれたのが、イーサンでした」

 それにしても“行かせてください”というセリフはよかったですね。“そこまでいうなら”と、これまた聞いていて清々しい気分になったのを覚えています。売らんかな、ではなく、本気で私のことをカッコよくしたいという思いが伝わってきて、嬉しかったのです。

スーツは、ダルクォーレ フォー ブライスランズ。ホーランド&シェリーのリネン製です。シャツは、ブライスランズのオリジナル。テロンとしたレーヨン製で、胸ポケットがついています。

 ネクタイは、ヴィンテージ。「多いときは、週1回は行く」という高円寺の古着屋で買われました。1940年代くらいのものだそうです。

 サスペンダーは、ブライスランズ。

 チーフはシモノゴダール。

 ラペルにつけたピンとリングはレッド ラビット トレーディング。

 シューズは、ブライスランズByコルノ ブルゥ。

「コーディネイトのテーマを教えて下さい」という質問に、山田さんが一瞬言葉を詰まらせていると、横からイーサンが「レーヨンシャツやプリントタイは、1950年代のウエスト・コーストの雰囲気。カジュアルなものとフォーマルなものを、ミックスしている」と助け舟を出していました。ふたりの信頼関係はとても篤いようです。

さて、山田さんはどうしてブライスランズに入社したのでしょうか? 

「東京の大学を卒業してアパレルメーカーに就職しました。しかし、ある時インスタか何かでイーサンの存在を知り、そのあまりのカッコよさに夢中になってしまったのです。当時はイタリアのスーツに加えて、アメカジも好きだったので、その両方をミックスしたスタイルはまさに『見つけた!』という感じでしたね。初めて店を訪れたときは、裏通りで店の前に階段があって、『入りづらいなぁ・・』と思ったのを覚えています。最初に買ったのはソックスでした(笑)。それからしばらくは客として通い詰めました」

 あることをきっかけに、山田さんはブライスランズをさらに好きになります。

「冬物のフランネルのトラウザーズを買ったら、イーサン自身が裾上げをしてくれた。そうしたらダブルの折返しの裏にホールを開けて、閂(かんぬき)止めをして、カフスをボタンで留める仕様にしてくれたのです。見えないところにまで細かい仕事をしてくれたことに感激しました。ちょうどその頃スタッフを募集していて、運良く声をかけてもらったのです。二つ返事で受けました。本当にうれしかったなぁ!」

 入ってみると、今までの大手アパレルとは、何もかもが違っていたといいます。

「同じ空手でも、流派や師匠が変わった感じでした。イーサンは口うるさく言うタイプではなくて、全然怒らない。上司でもあり、友人でもあり、兄貴分でもあり、でっかい背中を見て学ぶという感じです。一番苦労したのは、ショップ内の会話は、ほぼ英語だということです。会話の内容は、洋服そのものよりも、文化的背景や歴史、ライフスタイルの話が多い。あと政治の話も。彼はオーストラリア人なので、いつも日本を客観的に見ているのです」

 ブライスランズとイーサンの話をするとき、山田さんの目はキラキラと輝いています。もう楽しくて仕方がないと言ったような・・。

「しょうもない下ネタの話なんかもしますね。例えば、この間は(テーラーの)小野さんを交えて、“トイレ(小)は立ってするか、座ってするか”という話題になりました。私とイーサンは座る派、小野さんは立つ派でした。そうしたら小野さんが、『じゃあお前、漢を売りにしている俳優や歴史上の偉人が座ってしているところを想像してみろよ、かっこ悪いじゃないか』と反論して大笑いになりました」

なんともアットホームなお店ですねぇ。和気あいあいとしたムードが伝わってくるようです(ちなみに私も座り派です)。

「ラーメンの“つけ麺”を考えた人は天才だと思います。材料は同じでも、その結果はまるで違う。イーサン・ニュートンがやろうとしているのも、つけ麺のようなものなのです。イタリアン・クラシックやアメリカン・カジュアルをベースにしつつも、まったく新しいものを生み出そうとしているんです」

 なるほど・・。それにしても、さっきから山田さんの話を聞いていると、その例えがユニークなことに気付かされます。この方自身、とてもオリジナリティがあって、頭の回転が早い。ブライスランズには“来るべくして来た”のでしょう。

「僕はイーサンが死んだら、絶対にお墓参りへ行きます」という発言には、さすがのイーサンも目を白黒させていましたが・・

 さて山田さんへのインタビューの途中から、イーサンはいつのまにかギターを爪弾きだしていました(どこまでも自由な店です)。せっかくなので、イーサンにも山田さんの印象を聞くと、静かに曲を奏でながら・・

「彼はとてもインテリジェントで誠実・・仕事の覚えも早い。私はいつもファッションではなく、カルチャーを教えようとしているんだが、すぐに何を言いたいのかを理解してくれる。もし10点満点で点数をつけるなら、間違いなく10点だ。われわれはたった6人の会社だが、全員がファミリーだ。ヤマダのいないブライスランズはあり得ない・・」

 それを聞いた山田さんの目は、心なしか潤んでいるように見えました。

Ryutaro Yamada:
Linen Suits Dalcuore for Bryceland’s ¥451,000
Rayon Shirt Bryceland’s ¥26,950
Tie vintage
Braces Bryceland’s ¥14,080
Pocket Square Simonnot Godard ¥6,930
Shoes Bryceland’s By Corno blu ¥85,250

Ethan Newton:
Jacket Liverano & Liverano
Rayon Shirt & Scarf Bryceland’s
BespokeTrousers Ambrosi ¥146,300
Sunglasses Bryceland’s✕Solakzade ¥52,470
Hat Alley Kat
Accessories Red Rabbit Trading
※価格が入っているものは、ブライスランズで購入可能。

https://www.brycelandsco.com/

 

THE RAKE
https://therakejapan.com/

PROFILE

松尾 健太郎

松尾 健太郎

THE RAKE JAPAN 編集長


1965年、東京生まれ。雑誌編集者。 男子専科、ワールドフォトプレスを経て、‘92年、株式会社世界文化社入社。月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、以後クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05年同誌編集長に就任し、のべ4年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン各編集長、新潮社ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌THE RAKE JAPAN 編集長。

2024.04
SMTWTFS
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    
RakutenPay

*当サイトの税込価格表示は、掲載時の消費税率に応じた価格で記載しております。 お間違えになりませんようご注意ください。

arrow