BLOG / Kentaro Matsuo

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宅間理了さん

2023.01.30

宅間理了さん
BEARS代表取締役

 スカウターってご存知ですか? 漫画『ドラゴンボール』に出てくるベジータが装着している片眼鏡のようなアレです。スカウターを通して相手を見ると、その戦闘力が数値化されてわかるという機械です。
 実は私の目にも“お洒落スカウター”というものが付いています。私自身は決してお洒落ではないのですが、30余年もファッション編集者を続け、たくさんのお洒落な方々にお会いしているうちに、ちらりと見ただけで、その人がどのくらいお洒落なのか、数値化されてわかるようになってしまいました。
 今回ご登場頂いた宅間理了さんとは、とあるパーティでお会いしたのですが、その瞬間に私のお洒落スカウターは振り切れそうになりました。上質なジャケットにデニムのシャツとシルクのタイをさらりと合わせるテクニック……、そのお洒落力はゆうに100万を超えていました(スーパーサイヤ人並み?)。そこで懇願し、今回のご登場となったわけです。

 インタビューは宅間さんが経営なさっているBEARSのショールームで行われたのですが、その設えにも度肝を抜かれました。場所は都内某所の高級マンションの一室で、その広さは260㎡を誇ります。築30年の物件をスケルトンリフォームして、これ以上ないほど贅沢な空間へと生まれ変わらせています。
「私の仕事は不動産にインターナショナルな視点から手を入れて、その価値を高めることです。主に都心のマンションが多いのですが、土地やビルを買って、プライスレスな物件へと再生させています。日本だとインテリアは『座布団だけでいい』という考え方がいまだに主流ですが、欧米だと家具を入れて、インテリアをコーディネイトして、初めて物件として評価されるのです。しかし全体のバランスをとりつつセンスよく仕上げるのは素人だとなかなか難しい。そこで当社ではプロのデザイナーの手を借りて、最高級の素材や家具を使って、世界の富裕層に通用するようなスペースを作り上げているのです」

 エントランスには、オーダーメイドでカットされた大理石が敷かれています。フロアには上質な無垢板のフローリングが張られ、ドア類はすべてローズウッド製です。広大なリビングスペースには伊ミノッティの巨大なソファが置かれ、傍ではエコスマートのバイオエタノール暖炉の炎が揺れています。ダイニングにはオーダーメイドの大理石製カウンターが組まれており、やはりオーダーで作られたダイニングテーブルの上には、伊アルテミデのまるでオブジェのような照明が吊られています。全体感からディテールに至るまですべてが考え抜かれており、圧倒的にラグジュアリーな雰囲気を醸し出しています。

 「ここはショールームなので売り物ではありませんが、もしお売りするとしたらすべて込みで5億円くらいでしょうか。BEARSはこういったプライスレスな部分をデータ分析することを得意としています。当社が扱っているのは、3億円前後の物件が多いですね。5人にひとりかふたりは海外の富裕層のお客様です。実は日本の不動産は、海外に比べるとまだまだ安いのです」
 貧困層である私は、呆然と口を開けているばかりですが……、実はこの物件は拙宅のすぐ近くで、なんとなく相場は知っており、この内容を鑑みると、確かに5億なら安いような気がしました(もちろん買えませんけどね)

 それにしても、そんなに高いものを、どうやって売るのでしょうか?
「どちらかというと、私は物件を買って頂くより、売って頂く(自分が買う)ほうが得意なのです。不動産というものは買って頂く際は、瞬間的な出会いのようなもので、あっという間に決まってしまうことが多い。あくまでもモノありきです。それに対して売って頂く際は、人ありきなのです。私は基本的に人が好きで、お会いした人をもっと知りたくなるという性分です。不動産を所有している年上の方とお知り合いになって、不動産以外の話をいろいろとお聞きするのが楽しい。インテリアやファッションなどもよく話題にします。これは上質なものを勉強するのに、とても役に立ちました。そうやって仲良くなって、そしてある日『お前に任せるよ』と言って頂けるのです」

 宅間さんは、幼い頃から不動産が大好きだったそうです。
「小学校1〜2年生の頃から、新聞の折り込みチラシなどで不動産の間取りを見るのが好きでした。現場を見に行って、物件が出来上がるまでの過程をつぶさに観察していました。こっそり忍び込んで、間取図と見比べて『ここは、こうなっているんだ』とひとり頷いてみたり。ある友人の家は、遊びに行くずっと前から、間取りをすべて知っていました(笑)」
 
 典型的なガキ大将タイプだったそうで、
「田舎の町の出身だったので、いつも外で遊んでいました。カブトムシやカマキリを捕まえるのが得意でしたね。小遣いは少なかったので、当時流行っていたカードやビックリマンシールはあまり買えなかった。そこで捕まえた虫たちを友達のカードと交換することを思いつきました。大きなカマキリだと、いいカードがゲットできたなぁ(笑)」
 なんとなく、今のビジネスに通じるものがあるような……
 
 さて、もうひとつお好きだったのが、ファッションです。
「小さい頃からファッションは大好きでした。粋人だった祖父の影響でしょうか。祖父はよく帽子や靴、ステッキなどの手入れをしていたのを憶えています。私も半ズボンの長さにこだわって、わざわざ長いデニムを買ってきて、好きなところでカットしてもらっていました。『この辺で切ってください』とか言って。ビスポークのはじまりですね(笑)」

 そんな宅間さんのファッションを拝見してみましょう。
 スーツはもちろんビスポークで、サルトリア チッチオ。おなじみ上木規至さんのテーラーです。
「ブリオーニやキトン、トム・フォードなどいろいろと試しましたが、ご覧のように私は筋肉質で体がデカイから(大学4年間は体育会系ラグビー部)、吊るしの服は難しいのです。イタリアなどに作りに行っていたこともありますが、仮縫いなどで年に何回も足を運ぶのは面倒臭くなってしまいました。そんなときにチッチオの上木さんと出会ったのです。私は上半身が大きいので、テーラーによってはダルマのように見えてしまう。しかし彼の服は着やすく程よくモダンで、とても気に入っています。もう30着ほど誂えました。この生地はジョン・クーパーネームで、ウール×カシミア×シルバーミンクをホーランド&シェリーが所有する世界に14台しかないドブクロス織機で織り上げたもの。なかなか手に入らないと聞いています」
 ウェットで、オイリーで、柔らかく、素晴らしい生地ですね。以前上木さんが「私の経験からすると、スーツ用としては一番いい生地かも……」とつぶやいていたことを思い出しました。

 シャツも、チッチオでオーダーしたもの。

 タイは、アット ヴァンヌッチ。加賀健二さんのブランドです。
「加賀さんとは個人的にも仲良くさせて頂いています。今日のコーディネイトを見せたら『江戸にはない合わせ方やな』と言われました(笑)」

 時計は、ロイヤルオーク、41mm。
「ジェラルド・ジェンタのデザインには、普遍的なよさがありますね」

 シューズは、ジョンロブのロペス。
「実は私は、毎日ロペスを履いています。ロペスだけで20足くらい持っています。長すぎず、短すぎないデザインが秀逸。程よい硬さと柔らかさも併せ持っています。職業柄、靴を脱ぎ履きすることが多いので、ローファーが便利なのです。以前はビスポークの靴も試しましたが、会食の後どうしてもキツすぎて履けなくなり、手で持って帰ったこともあります(笑)」

 宅間さんは「ゆっくりと服を着ていきたい」と仰います。
「1着の服を何年もかけて楽しみたいと思っています。5年目くらいにしっくり来たりすることもあります」
 あ、その感じ、私もよくわかります。

 ここまで読んで、「宅間さんって、コワそうな人だなぁ〜」と思った読者がいらっしゃるかもしれません。しかし実際はその正反対で、とても優しく礼儀正しい紳士です。人懐こい笑顔は誰しもを魅了するでしょう(BEARSという会社名は、彼の風貌から名付けられたそうですが、まさに森のイケメンクマさんといった感じ)。
経営者にはときに豪腕も必要ですが、いちばん大切なのは、やはり人間的な魅力なのだと思わせられるインタビューでした。

窓外に大木が茂る素晴らしいロケーション。BEARSの手にかかると、素材感を重視したシンプルな意匠と、イタリア製を中心としたセンスのいい家具の配置によって、ヴィンテージ・マンションの価値が何倍にも膨らむ。

 

THE RAKE
https://therakejapan.com/

PROFILE

松尾 健太郎

松尾 健太郎

THE RAKE JAPAN 編集長


1965年、東京生まれ。雑誌編集者。 男子専科、ワールドフォトプレスを経て、‘92年、株式会社世界文化社入社。月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、以後クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05年同誌編集長に就任し、のべ4年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン各編集長、新潮社ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌THE RAKE JAPAN 編集長。

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