2024.11.14
近頃、ラグジュアリーウォッチ界隈は資産価値がますます加熱しています。昨年日本に正式上陸を果たした「新生HYT」をご存知でしょうか。液体モジュールが時間を表示する新機構を、戸賀さんが「次なるリシャール・ミル」と公言する、その魅力について伺いました。
ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲなど、高級機械式時計は資産としての価値が注目されています。ゼンマイの力を利用して歯車を駆動させ、時間を表示する機械式時計は、針を使う以外にも様々な技法があり、なかでもHYTが採用する「液体」が時刻を表示する時計は唯一無二と言っていいでしょう。
「今までにない時計を作りたいという思いから、医療、航空宇宙など、様々な分野の技術を取り入れ、10年もの歳月をかけて新規開発されたのがHYT。それまで時計の"敵”とまで言われていた液体を使うという発想からして頭抜けているよね。しかもすべてが自社で、手作業で、年間120本しか作らないなんて、クルマで言えばフェラーリのような企業運営をしてるのも凄いことだと思うんだ。」
時計の聖地スイス・ヌーテシャルに2012年に設立されたHYTは、世界的な時計博覧会バーゼル ワールドに出品したその年に、いきなりイノベーション・ウォッチ・アワードを3つも受賞するという鮮烈なデビューを果たしました。2020年後半に大幅な組織改編が行われ、2021年3月に新株主の元、創業者のヴィンセント・ペリアード氏が会長として復帰し、経営陣を刷新、その新生HYTが昨年日本に正式上陸しました。 それまで存在が幻といわれた実機を目の当たりにできることになると、多くの時計マニア、そして富裕層の方々から注目が集まります。もちろん戸賀さんもそのお一人。早速、国内最速で1本所有されました。
「もちろん資産としての価値もあるけど、時計好きとしてはこの技術を手にしないわけにはいかないからね。去年のラインナップはラグジュアリースポーツウォッチの顔つきだったけれど。今年はドレス顔のモデルも登場しているから、ますます目が離せないというか。着実に時計業界を震撼させる存在になってるんだよね。」
戸賀さんが着けている「T1 TITANIUM(ティーワン チタニウム)」は、それまでスケルトンが主流だったフェイスに、カラー コーティング真鍮のダイヤルをセット。ぐるりと一周するフルードモジュールによって、時表示がなされます。アプライドはブラックゴールドプレート、ブラックゴールドポリッシュの分針とパワーリザーブを備えていて、ブラックラバーストラップの採用でスポーティな印象です。
「スーツやジャケットにも似合うデザインになったT1。軽量合金のチタンケースは45ミリ系の迫力。大径なのに、繊細なエレガンスを感じさせるところは、ラグジュアリー時計ならでは。2本目を選ぶなら、コレかなって思ってます。」
▲ エイチワイティー / S1 JAPAN LIMITED EDITION
「S1 JAPAN LIMITED EDITION(エスワン 日本限定モデル)」は文字通り、日本限定モデル。上掲のT1をベースにスケルトンフェイスに仕立て、サンドブラスト加工されたサテン仕上げのチタンケースに、ギャラクシーテックシルバーのVelcroストラップをセットしています。
「2024年は日本とスイスが国交を樹立して160周年を迎えたことを記念して作られた限定モデル。かなり精悍な顔つきで、マットなチタンケースは最近のラグジュアリースポーツカーに見られる艶消し仕上げになっている。限定8本!これはレア度も高いので、相当な価値があるのでは。」
こちら、戸賀さんが所有する「HASTROID COSMIC HUNTER(ハストロイド コズミックハンター)」。チタンとカーボンを組み合わせたコーティングサテン仕上げのケースは、ブロンズカラーにミリタリーグリーンのアルカンターラを配したラバーストラップが付属する男っぽいデザインのモデルです。
「ハストロイドは3Dインデックスが迫力を感じさせるデザイン。先ほどのS1と同じく、6時位置にセットされた2つのベローズ(吹子型パーツ)がよく見えるんだ。このパーツが液体を押し出して、モジュールが時間を刻む仕組みを視認できる。時間が戻るとき液体が逆流する動きは、これまでの時計のムーブメントにはない動作が男心をくすぐります。」
ダイヤル中央の球体が月の満ち欠けを表す「ムーンフェイズ」を、HYTが再解釈した複雑機構「MOON RUNNER(ムーンランナー)」。モデルによっては、月の表層にクレーターがエングレーブされるなど、細かい仕様が見受けられます。
「レッドマグマというカラー名からして個性的な鮮烈カラーリングが目を引くこのモデル。カレンダーとムーンフェイズが搭載されてるんだ。ムーンフェイズの周りに日表示と月表示がダイヤル化されていて、正14角形上に配置された時間表示、12等分割の月表示、31等分割の日表示を、同心円に配置するデザインは、ムーブメントの設計からオリジナリティが満載。時計好き、クルマ好きなオトナたちが集まったら話題が尽きないよね。」
▲ エイチワイティー / コニカル トゥールビヨン ブラック エクリプス
トゥールビヨンは、重力の影響を排除して時計の精度を保つ、最高レベルの複雑機構。これを搭載する「CONICAL TOURBILLON (コニカル トゥールビヨン)」は、まるで時計の中に宇宙をセットしたかのようにムーブメントには533個ものパーツが配置されており、総パーツ数は750個にものぼります。
「斜めに置かれたセンタートゥールビヨンは、ゼンマイやテンプ、ガンギ車もすべて計算され尽くした角度でセットされているんだ。その周囲を一周する管の中に、グリーンの液体がゆっくりと時を刻んでいく様子は、まるで宇宙を俯瞰しているみたい。無機質な機械のはずなのに、幻想的で有機的な動きを見せる生き物のような。そんな空前絶後な時計といってもいい。これはもう時計というより宇宙。宇宙を買ったと思えば、この値段も納得いくのかもしれない。」
全5型をラインナップしたHYT。ブランドの年産120本ということから、どれも限定品といっていいほど希少なモデル。しかもすべてオリジナル設計のハンドメイドとあれば、アート作品か宝飾品と同等の資産価値をもつことも頷けます。
「90年代以降は技術を持つ時計ブランドが評価されていて、三大時計メーカーの価値が再評価されていたりもするんだけど、2012年に技術優先のHYTが誕生したことは、ある意味時計業界の下剋上的な感覚があるよね。スマホで時間が見られる時代に、左手首で語れるイノベーション。時計の未来を語ることで新たな資産価値が生み出されるなんて、時計ってやっぱり面白い!」
【公式】HYT Watches Japan(エイチワイティー)
https://hytwatches.jp
Producer : 大和一彦 / Photographer : 鈴木泰之 / Writer : 池田保行 (ゼロヨン) / Designer : 中野慎一郎