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写真家 / 藤代 冥砂生まれ育った人でもなく、訪問者でもない、中腰の視点が捉えた、沖縄の光と色。

2016.09.23

銀座のキャノンギャラリーで7月7日(木)〜7月13日(水)にわたり開催された、藤代冥砂写真展「あおあお」。会期後半、小雨交じりでまだ人出も少ない、午前中の銀座。時にアコースティックロック、時に沖縄音階の三線の音色が静かに流れる、写真展の会場にお邪魔して、藤代冥砂さんに、沖縄での近況、今回の作品集、今後のご予定をお聞きしました。

写真家

藤代冥砂さん

1967年生まれ。アートとエンターテイメントの領域を横断した、女優、アイドル、旅、自然、ファッション等様々なテーマの作品で知られる写真家。「新潮ムック月刊シリーズ」で、第34回講談社出版文化賞写真部門受賞。小説、エッセイ等の文筆家としても活躍。主な写真集:「RIDE RIDE RIDE」、「もう、家に帰ろう」、「58HIPS」 主な著作:「誰も死なない、恋愛小説」幻冬社文庫、「ドライブ」宝島文庫



写真との出会い

--- 子供の頃は、どんな子供でしたか?

普通の子でした。ただ、知らない道を歩くことは好きだったかな。下校時に脇道、寄り道を楽しんだり、、、。でも、それも子供にとっては一般的なことですよね。ほんと、普通の子でしたよ。

--- 写真、カメラの世界には、どのような経緯で?

フランス製の家具とか、小物とかを、プロの撮影向けにリースするようなお店でバイトをしていたのですが、そこのオーナーがたまたまカメラマンで、そのまま撮影の手伝いをするようになりました。

カメラには興味はあったのですが、“写真を通した自己表現”とかをそういったことがしたい訳ではなく、カメラを触って、撮影して、プリントすることが、ある種の新しい遊びのように感じていました。

その時は、カメラマンという仕事を、「堂々とぶらぶらできそうな職業」としてとらえていたような気もします。



距離が生んだ、時間と空間

--- 5年前に葉山から沖縄に生活の場を移されて、ご自分の中で変化したことは?

物理的に、東京との圧倒的な距離があることが、思ったより自分にとって影響がありました。葉山も都心からは離れていますが、東京のサテライトでもあり、どうしても東京に対してのバランスが、視野に入ってしまいがちで。

沖縄は、単純に「遠いなぁ」と感じたし、その“遠さ”というものの間に、空間が生まれて、そこで、ものを考えたり、逆に考えなかったりという時間が増えました。時間があるので、体や健康のこと。大きく言うと、地球、宇宙の調和。空間や、人間関係において余白があることの重要性。そんな事を漠然と考えたり。

沖縄に住み始めたのが40代の半ばで、年齢的にその辺を人生の折り返し地点と考えると、そんな時期に、無為に過ごす時間に浸ることができたことは、今後の自分にとっても大切な経験だと思ってます。

--- 沖縄の風景写真は、いつ頃から撮り始めたのですか?

いつも、カメラは持ち歩いていて、沖縄に移ってからすぐに撮り始めました。その頃は、テーマも、それを発表する予定も無く、ハッと思った、光と色に惹かれた瞬間が形になり、ただ蓄積されていった、そんな感じでした。

沖縄の生活が4〜5年になり、撮り溜めていたものを確認してみたら、自分としても、「こんなものを撮っていたんだ」というような新鮮な発見があり、そろそろまとめてみようと。

--- それが、今回の写真集、写真展という形に?

そうですね。改めて作品たちを眺めて、撮影の為に内地から来た人の視点でもなく、そこに生まれ育った人の視点でもない、ふらっとやってきて4、5年住んだくらいの、ある意味不安定な、中腰の視点が、直感的に沖縄の光と色に感応させてくれた、そんな風に思います。

言葉にすると説明的になってしまうのですが、ここにある光と色が綺麗だなとか、見る人がそんな風に感じて貰えたら、それがこの写真を撮った時の自分の感覚に、一番近いのかもしれません。



対になる写真集

--- 少し前に「SKETCHES OF TOKYO」というヌード写真集を出版されましたよね。

今年の2月1日でした。出版のタイミングは前後したのですが、この写真集も今回の沖縄の写真と一緒の時期に撮影されたものなんです。風景と女性のヌードという全く別の作品が、ほぼ同時期に進行して、それが同じようなタイミングで形になったことが、自分でも面白いと感じています。

あえて、二つの作品を位置付けると、「かつて住んだ東京へのオマージュ、今住んでいる沖縄へのオマージュ」、言葉を変えると、「過去へのオマージュ、今へのオマージュ」、でしょうか。

--- 人物と風景という全く異なる被写体ですが、撮影の際に何か自分の中で変化することはありますか?

全く同じように撮っています。切り替えみたいなものは無いんですよね。正直な気持ち、僕にとって写真って簡単なんですよ。好きなものレンズを向けると、全部撮れるという感じがあります。

その興味があることってひとつじゃなく、それぞれの人の中でも、流行とかも含めて、移っていきますよね。自分の中でもその対象が、変化していっているということだと思います。

自分はなぜか周りから、考えて行動しているように思われがちなんですけど、実際のところ、ただ感覚的に動いているだけなんです。

--- 今回の東京での滞在、銀座のギャラリーでの時間で感じたことは?

普段東京にいないので、中々会えない旧知の色んな人が足を運んでくれて、飲食店の主人のような立場で、時に懐かしく、楽しく迎え入れているような感覚でした。以前から僕の作品に触れている人は、人物写真の印象が強いようで、風景写真だけの作品集が新鮮だったのか、色んな感想を貰えました。

また、今回の展示会場がカメラメーカーのキャノンのギャラリーということもあると思うのですが、写真、カメラが好きな人がふらっと入ってきて、話しかけてきてくれたりしたことも、広がりを感じる楽しい経験でした。

ギャラリーの向かいに、立ち飲み屋さんがあって、昼間の空き時間に、ふらっと友人と飲みに行ったり。ほんと、色んな人に会えて良かったです。この写真展は、札幌、福岡、仙台、大阪にも巡回するので、今後また色んな人に会えることも楽しみです。

キヤノンギャラリー 藤代 冥砂 写真展「あおあお」



第2章のはじまり

--- 今後の活動予定について教えてください。

2冊の作品を作りながら、それを写真集という形にしていく過程で、何かがふっきれたような感じがあり、自分にとっては写真、言葉というもので何かを生み出し、それを循環させていくことが、改めてとても大切なことなんだ、という確信が生まれました。具体的には、今後、年3冊くらいの写真集と、年一冊の小説の発行を、自分に課しています。

この「モノクロ / カラー」、「人 / 風景」という対になる2冊の写真集が、ソリを引く犬のように、自分の中の活動欲のようなものを導きだしてくれました。これから節操ないと思われるくらい、様々なことを撮っていきたいと思っています。

新しい作品だけでなく、過去に撮影されたものを発表することも考えています。最近では、90年代のクラブシーンを撮影した写真を整理していて、遅くても来年には、形にする予定です。

--- 何か新しいことが始まりそうですね。

僕は、8月8日生まれなのですが、「八」という文字が連なっている日付に生まれました。漠然と、その2つの「八」の重なった形から、何かが生まれ、広がり、一度収縮し、そしてまた、広がって行く、そんな2回の時間軸を過ごすイメージで、生きていくように感じていました。

自分にとって沖縄での生活が、この2冊の写真集が、その時間軸の転換点になり、第2章ともいうべきものが始まったのかもしれません。

CREDIT

Interview & Photo : SUMIYA TAKAHISA

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